「待ってくれている人のために、できることを一生懸命に」佐伯三貴

CALLAWAY STAFF PLAYER MIKI SAIKI
キャロウェイスタッフプレーヤー 佐伯三貴

消えないケガの痛み。プロゴルファーがゴルフをできない、もどかしさ。苦難を乗り越えて、佐伯三貴は2016年、ツアーへの復帰、そして、2013年以来となる優勝を期す。

インタビュー佐伯三貴

「ケガの功名」ということわざがあるが、アスリートにとっての故障は、なかなかそう、うまく話は進まない。いや、うまくいかないことのほうが多いというのが現実だろう。ほとほと疲れ果てて、もう最後は笑うしかないとでも言うように、佐伯三貴は苦笑も交えながら、つらい時期を振り返った。

「ゴルフのことをいろいろ考えましたね、このまま、やめちゃってもいいかなと」
 2014年終盤戦、彼女の成績は下降線を辿った。最後の6戦中4戦で予選落ち。しかも、予選落ちではない2戦のうち、この年の彼女の最終戦となった大王製紙エリエールレディスオープンでは、棄権を余儀なくされている。理由は、右の手首にあった。
「それまでもときどき痛みはあったのですが、人間ってすごいもので、痛くないと思ったら痛くなかったりしますし、自分で痛いと思ってはダメだとも考えていました。でも、パフォーマンスは落ちていましたし、トレーニングをしてもケアをしても、思うようなスイングができない。そして、それを言ってはいけないという悪循環でした。
昨年の開幕戦では、プレー中に何かプチッという音みたいなものがしましたが、そのときも、たとえば指の関節が鳴ったみたいなものだろうと思っていたんです。でも、痛みは続きましたし、原因ははっきりしないし、2週間に1回ぐらいのペースで痛み止めの注射を打つようにもなっていました。それで、ふと考えたときに、このまま1年間、注射を打ちつづけてやれるのかと感じ、これは1回休んでしっかり検査をして、その痛みの原因がなんなのかをちゃんと調べようと思ったんです」

インタビュー佐伯三貴

7戦を戦って6戦で予選落ちを喫した後に、5月のワールドレディスチャンピオンシップサロンパスカップでは開幕前日に欠場。1年間の「トーナメント特別保障制度」を申請して適用され、ツアーから離脱して、さまざまな検査を受けた。1人の医師だけでなく、セカンドオピニオンも求めた。結果、右手首の腱が切れていたことがようやく判明した。
「音がしたときにたぶん切れていたんでしょうね。筋膜もはがれていて、よくやっていたね、というくらいボロボロでした」
 7月1日に手術をし、手から腕にかけて大きなギプスを2カ月間装着しつづけたのだが、外してみて驚いた。腕は細くなり、しかも関節がまったく動かなかった。いや、それはリハビリやトレーニングをすれば元の状態に近づいていくから、まだいい。問題は痛みだ。
「以前、首のヘルニアのときは、2012年の12月に手術をして、翌年2月にはトレーニングも練習もできて、4月には優勝したくらい順調だったという頭があったので、余計に今回は思ったより時間がかかるなと。正直、このケガとはずっと向き合っていかなければいけないことなのかなというのを、いますごく感じています。もう痛みがゼロということにはならないと思うので、それとお付き合いしていく感じですね」

ここまで思い悩んだことを、プラスに変えたい

傷ついたのは、体だけではなかった。心のダメージは大きかった。
「コーチである倉本昌弘プロからは、休んでいる時間は、いままでできなかったことを楽しめる時間でもあるから、エンジョイしなさいと言ってもらえました。だからポジティブにもなれましたし、いままでろくにしたこともなかった家族旅行に行ったり、遊びに行ったりと、まったくゴルフのない生活を楽しもうともしました。でも、こんなことをしていていいのか、みんなに置いていかれるんじゃないか、このままゴルフができなくなるんじゃないか、みんなに忘れられるのかなと、ずっと不安で仕方がありませんでした。これだけゴルフから離れていたこともあって、いまも思いは常に崖っぷちです。それに周りからは、制度を利用して休んでいるのに、遊んでばかりだね、という声も聞こえてきました。自分ではトレーニングもしたいのに、先生からは止められているので、できない。でも、周囲からはサボっているように捉えられる。すごく切なかったですね」
 それで、冒頭の言葉に戻る。
「これまでケガをさんざんしてきたこともあって、ゴルフのことを憎んだりもしました。でも一方で、ゴルフのおかげで、これまでとてもいい経験をたくさんさせてもらったこともあり、気持ちが不安定というか、日によって違うことを考えてしまうんです。たとえば何かを一つ買うにしても、自分には収入がない、これから1人でこのままやっていくのは無理だから、早く結婚したほうがいいのかなとか。すごくたくさん考えました」
 しかし、ゴルフへの思いは消えなかった。やり残していることもある。
「まだメジャーチャンピオンになってないですし、キャロウェイと契約してから1勝もできていません。キャロウェイにはずっと温かくサポートしていただいていますし、私はそれに対して、まだ全然、恩を返せていないですから。いままで自分のためにゴルフをやってきましたけど、本当にこの人たちのために一緒に勝ちたいという気持ちが強いんです。本当だったらたぶん、もうやめてもいいっていうぐらいのケガだと思うんですが、まだやりたい、やらなきゃいけないというのがありますし、少なくとも私のプレーを待ってくれている人もいると思うので、その人たちのためにやりたいというのはあります」
 まだ、復帰へは途上だ。でも、もう迷いはない。

インタビュー 佐伯三貴

「実際のところ、表現は悪いですけど、もう以前の自分は死んだと思っていますし、いままでのようにはいかないこともわかっています。結果も、思ったように出ないと思います。だから、ゼロの新しい気持ちで、若い子と同じように自分を無名の選手だと思って、飾らないゴルフをしたいと思いますし、自分ができることを一生懸命やりたい。ここまで思い悩んだことを、ぜひプラスに変えていきたいと思います。今年の目標は、復活できれば、もう幸せです。でも、目標を低くしてしまうとそれぐらいの努力しかしないでしょうから、優勝はいつでも狙っていたいですし、やっぱり復活優勝が目標ですね。勝てたらもちろん、泣いちゃいますよ(笑)」

インタビュー佐伯三貴

佐伯三貴
出身地:広島県広島市
生年月日:1984年9月22日
出身校:東北福祉大学(宮城県)
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